ソルナリウム編集部:今回は、金魚のふるさと大和郡山市で明治三十八年(1905年)創業の老舗企業金魚すくい本舗「金魚屋の息子」さんに、金魚屋の春の仕事として、「金魚の繁殖・産卵」についてお聞きしました。
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多くの方にとって、「金魚屋」と言っても何をやっているのかさっぱりだと思います。
今回は、少しでも「金魚屋」について知ってもらえるよう、一般的にはあまり知られていない、「金魚屋」の春の仕事(3月頃の仕事)を紹介していければと思います。
3月の金魚屋の仕事、すなわち、金魚の産卵です。
3月は金魚屋にとって金魚の産卵が始まり1年がスタートする時期
さて、金魚の産卵のお話をする前に、金魚屋にとっての「3月」について紹介します。
実は、3月は金魚屋にとって、1年のスタート時期です。
3月3日は金魚の日
3月3日は「ひな祭り」ですが「金魚の日」でもあります。
江戸時代、お雛様と金魚鉢に入った金魚がいっしょに飾られていたことが由来です。
金魚といえば夏なのに、なぜひな祭りに金魚?と思われるかもしれません。
しかし、江戸時代には金魚は2月~3月に売られるものでした。
なぜなら、金魚をひな祭りに飾るためです。
そして、金魚売りの売り声は、春を呼ぶ縁起の良いものとされていました。
金魚売りの売り声「きんぎょ~え~、きんぎょ~♪」は、時代劇などで聞いたことがある人も多いかと思います。
金魚組合でも1年が始まる日として3月にスピーチ
3月3日は金魚の日、金魚屋の1年の始まりとして、金魚組合では金魚供養をしたり1年が始まる日としてのスピーチがあります。
さて、3月が金魚屋のスタートと言われる理由として、金魚の日以外にも次の2点が挙げられます。
- 金魚の産卵が始まる
- 花見などでイベントが始まりだすので出荷が増えはじめる
3月は金魚の産卵が始まる
金魚の産卵は、例年3月中旬から後半に始まります。
金魚の産卵は水温20℃くらいになると始まるため、時期としては桜の咲く前後くらいと言われています。
そして、3月中旬に始まった金魚の産卵は、5月頃まで続きます。
(途中で寒気がくると産卵が止まったり、暑くなりすぎると早めに産卵期が終わったりします)

金魚屋では多量の産卵・孵化をおこなうため、水槽飼いとは少し異なった方法で産卵を行っています。
金魚屋では産卵のために3種類の金魚池を用意
3種類の金魚池を用意し産卵を迎えます
- 産卵するための池
- 孵化するための池
- 成長させるための池
産卵するための池

親となる金魚だけを集めた池で、産卵藻に産卵してもらいます。
産卵は夜から午前10時頃まで行われます。

産卵藻に卵が付いてるか、午前4時~午前10時頃まで何度も確認し、卵が十分についていたら産卵藻を池から引き上げ、卵が孵化するための池に運びます。
孵化するための池
金魚が孵化するまで置いておく池です

水が温まりやすいように、卵のついた産卵藻を浅めの池に入れます。
水温は20℃以上であることが望ましいので、夜は温度が下がらないようにブルーシートで保温することもあります。

なぜ、わざわざ孵化するための池を用意するかというと、卵がついたまま産卵池に置きっぱなしにしておくと、親金魚が卵を食べてしまうためです。
金魚は雑食性で、口に入る大きさのものならなんでも食べます
それが、自分が生んだ卵であっても、仲間の金魚であっても関係ありません。
卵は1週間ほどで孵化します。
孵化したばかりの稚魚は卵嚢がついており、餌は1~2日は必要ありません

この時期の稚魚の餌は、当店では「ゆで卵の黄身」を使用しています。
(水槽飼いの場合は、水が汚れるのでおすすめできません)
孵化して4日後くらいすると、池の中をしっかり泳ぎ回る様子が見られます。
そうしたら次の「成長させるための池」に移動します。
なお、金魚の稚魚はこんな道具ですくいます。

成長させるための池
大きな金魚池に稚魚を移動し、そこで稚魚を大きく育てていきます

稚魚は池のプランクトンや与えた餌を食べ、すくすくと大きくなっていきます。

6月中旬~7月くらいになると、出荷可能な大きさに育ちます。
金魚屋は毎年1年生、生涯勉強
産卵だけに限ったことではありませんが、毎年同じ気候・環境になることは無いので、金魚の飼育は毎年のように想定外のことが起こります。
金魚屋は毎年1年生、生涯勉強と言われる所以です。
特に金魚の産卵では、毎年のように想定外の出来事に遭遇し、毎回大きく悩み、試行錯誤を繰り返しています。